すっかり時間が経ってしまいましたが、前回ののシャトー・ラフルールの記事を読んでくださった方が多いので、もうちょっと、というかかなり踏み込んで今回書こうと思います。
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以前の記事 |
今回は、仕様書(Cahier des Charges)の違いや、その他アペラシオンを下げることで起こりうるであろうことをお届けします。
さらに今回の記事は、シャトー・ラフルールが行ってもいいことに限定したいので、ポムロール、ボルドー、そしてフランスの3つのアペラシオンについて書きますが、他のアペラシオンでも大体の流れは同じです。
地域が狭くなるにつれて仕様書はどんどん厳しくなっていくので、俗に言うフランスワイン「Vins de France(ヴァン・ド・フランス)」よりもボルドーワイン「AOC Bordeaux(アペラシオン・ボルドー)」の方が厳しいですし、さらにポムロールワイン「AOC Pomerol(アペラシオン・ポムロール)」の方が厳しいです。
そして、これはシャトー・ラフルールが「できる」だけで「やる」訳ではないので、そちらだけは念頭に置いてもらえると嬉しいです。
まだ書き始めの今でさえ、かなりめんどくさいワインの話になると予測してますが、最後まで読んでもらえると嬉しいです。
仕様書比較
何ができるようになるのか、は皆さん気になるところではないでしょうか。
フランスワインは比較的何でもできるので、ボルドーとポムロールを比較させてください。
この辺りの決まりはフランスワインにはないので、自由にワインを造ることができます。
全部の違いを列挙すると長くなってしまうので、私が重要だなぁ、面白いなぁ、と思うことを列挙していきます。
例外も仕様書に書かれていますが、言及してないです。
それでもそこそこ多いですが、ご了承ください。
さらに生産地域について明言してないですが、それぞれ認められている地域でのみ生産可能なので、もちろんポムロールの方がその範囲がとても狭いです。
| ボルドー | ポムロール | |
| 色 | 赤、白、ロゼのスティルワインのみ生産可能 | 赤のスティルワインのみ生産可能 |
| ブドウ品種 |
白ワイン用主要品種: 白ワイン用補助品種: ロゼワイン用主要品種: ロゼワイン用補助品種: 赤ワイン用品種: ポムロールは赤ワインしか製造が認められていないので、これ以降の記載については、赤ワインのみに限定します。 |
カベルネ・フラン、カベルネ・ソーヴィニョン、マルベック、メルロ、プティ・ヴェルド |
| 植栽密度 | 1ヘクタール当たり4000株以上 | 1ヘクタール当たり5500株以上 |
| 剪定方法 |
短梢(コット)または長梢(アスト)のみが許可されています。 メルロについては1ヘクタール当たり45000芽、1株当たり18芽が最大 その他品種は1ヘクタール当たり50000芽、1株当たり20芽が最大 |
ギヨー・サンプルかギヨー・ドゥーブル 短梢コルドン・ロワイヤ 長梢(アスト) |
| 収量 |
1ヘクタール当たり最大10000kg 最大60へクトリットル |
1ヘクタール当たり最大8000kg 最大49へクトリットル |
| 欠落限度 | 最大20% |
樹齢25年までは最大10% 樹齢26年以上は最大20% |
| 灌漑 | 例外を除き不可 | |
| ブドウの糖度 |
メルロ果汁は1リットル当たり189g以上 その他品種は1リットル当たり180g以上 |
メルロ果汁は1リットル当たり194g以上 その他の品種では1リットル当たり180g以上 |
| マロラクティック発酵 | 必ず行わなければならない | |
| アルコール度数 | 10.5%alc.以上 | 11%alc.以上 |
| リンゴ酸 | 1リットル当たり0.30g以下 | |
| 分析値 |
発酵性糖分(グルコース+フルクトース)は1リットル当たり2g以下 バルクで販売されるすべてのワインは、揮発性酸度が13.26ミリ当量/ℓ以下、すなわち酢酸換算で0.79g/ℓ (H2SO4換算で0.65g/ℓ)以下でなければならず、収穫の翌年の7月31日付以降は16.30ミリ当量/ℓ以下、すなわち酢酸換算で0.97 g/ℓ(H2SO4換算で0.80 g/ℓ)以下でなければならない。バルクで販売されるワインのロットは、総亜硫酸ガス含有量が140 mg/ℓ以下でなければならない。 |
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成分を取り除いて濃縮する技法(TSE法)は、濃度15%が上限で認められる。増濃後のワインの総アルコール度数は13.5%を超えてはならない。 |
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| 禁止事項 |
遠心ポンプを備えた自動ポンプを備えたバゲットの使用は禁止。 直径400mm未満の連続式スクリュープレス機の使用は禁止 |
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すべての生産者は、過去10年間の平均生産量の少なくとも1.5倍に相当する醸造タンク容量を有す必要がある 収穫時に利用可能な醸造容量は、醸造用容器の容量に相当する |
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| 熟成 | ワインは最短でも収穫翌年の11月1日まで熟成させなければならない。 |
市場に出されるすべてのワイン(バルクまたは瓶詰め)は、発酵性糖分(グルコース+フルクトース)含有量が1リットルあたり2グラム以下でなければならない。
- バルクで販売されるすべてのワインは、揮発性酸の含有量が以下の基準を満たす必要がある:
- 収穫の翌年の7月31日まで:
13.26ミリ当量/ℓ以下(酢酸換算で0.79g/ℓ、硫酸換算で0.65g/ℓ) - それ以降:
16.30ミリ当量/ℓ以下(酢酸換算で0.97g/ℓ、硫酸換算で0.80g/ℓ)
- 収穫の翌年の7月31日まで:
- バルクで販売されるすべてのワインは、総亜硫酸含有量が1ℓあたり140mg以下でなければならない。
つまり…
ラフルールは何でもできるようになったってことですね!
赤ワインに限らず、白ワインやロゼも造れるし、泡とか甘口も可能であれば造れる。
さらに栽培密度も考えなくていいし、剪定方法もなんでもいい。
とはいえ天下のラフルール。なんでもする訳はないと思う。
今後もラフルールらしいワインを造らないと、というかラフルールワインでなくなった瞬間に消費者は離れると思う。
シャトー・ラフルールのワインを買う人は、ポムロールのワインを、ボルドーのワインを、買っている訳じゃなくて、シャトー・ラフルールが造るワインを買ってるしね。
会費
私は上納金と呼んでいますが、会費が必要なのは皆さんご存知ですか?
しかもこの会費、アペラシオンによって全然違うんです。
ボルドーではボルドーワイン委員会と呼ばれるCIVB(Conseil Interprofessionnel du Vin de Bordeaux)があります。
ボルドー市内にCIVBのワインバーもあるので、名前を知っている方も多いのではないでしょうか。
このCIVBには色々な役割があるのですが、それはまた今度。
ボルドーのワインの造り手はCIVBへお金を納めなければいけません。
簡単に表にしたのでどうぞ。
ちなみに全部税抜価格です。
それぞれ1へクトリットル当たりの値段なので、生産量が増えれば、支払いも増えます。
赤ワイン
| 4,72€ | 7,79€ | 10,39€ |
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Bordeaux Bordeaux Supérieur Bordeaux Clairet Bordeaux Rosé Crémant de Bordeaux Rosé Graves de Vayres Bordeaux Côtes de Francs Blaye Rouge Blaye Côtes de Bordeaux Bourg Côtes de Bourg Côtes de Bordeaux Castillon Côtes de Bordeaux Cadillac Côtes de Bordeaux Francs Côtes de Bordeaux Sainte-Foy Côtes de Bordeaux |
Fronsac Canon Fronsac Graves Haut-Médoc Médoc Saint-Emilion Lussac Saint-Emilion Montagne Saint-Emilion Saint-Georges Saint-Emilion Puisseguin Saint-Emilion Lalande de Pomerol |
Margaux Saint-Julien Pauillac Saint-Estèphe Listrac-Médoc Moulis Pessac-Léognan Pomerol Saint-Emilion Grand Cru |
白ワイン
| 4,72€ | 7,79€ | 10,39€ |
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Bordeaux Bordeaux Supérieur Crémant de Bordeaux Blanc Entre-Deux-Mers Entre-Deux-Mers Haut-Benauge Graves de Vayres Bordeaux Haut-Benauge Premières Côtes de Bordeaux Côtes de Blaye Blaye Côtes de Bordeaux Côtes de Bordeaux Saint-Macaire Francs Côtes de Bordeaux Bourg Sainte-Foy Côtes de Bordeaux Côtes de Bourg Graves Graves Supérieurs Cadillac Loupiac Cérons Saint-Croix-du-Mont |
Pessac-Léognan Sauternes Barsac
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つまり…
シャトー・ラフルールはアペラシオン・ポムロールでした。
つまり、1へクトリットル当たり10,39€支払う必要があります。
シャトー・ラフルールの所有している畑は4.5ヘクタール、そして年間大体2万本生産しています。
つまり…概算ですが150へクトリットルの生産です。
1ヘクタール当たり33へクトリットルなので、そんなもんかなーって感じですよね。
年によって違うし、ざっくり計算なので現実とは違うかもしれませんがご了承を。
つまり、1558,50€支払う必要があります。
例えば、アペラシオン・ボルドーに格下げしたとしたら708€の支払いなので、これだけで結構違います。
(きっとラフルールにとっては大したことのない値段ですが)
さらにヴァン・ド・フランスにしたらどうでしょうか。
- ブドウ品種やビンテージを明記しない場合、0,46€
- ブドウ品種とビンテージの両方、もしくはどちらかを明記する場合、0,77€
をAssociation Nationale Interprofessionnelleという、全仏の組合に支払う必要があります。
つまりつまり、多分ラフルールはビンテージを書くでしょうから115,50€の支払いです。
これだけでアペラシオン・ポムロールとフランスワインで大きな違いがあるのが分かって貰えると思います。
この支払いの話、あんまり日本語で語られているのを見ないので、知らない人も多いのではないでしょうか?
とはいえラフルールの販売価格が下がるとは思えないですが、まぁ、こんな支払いもワイナリーには課せられてるよーと知っていると面白いんじゃないかな、と。
最後に
ラフルールがやるか、やらないかは置いておいて、色々変わるなぁというのが私の印象。
しかもラフルールはボルドーワインすらも捨て、フランスワインになると明言しています。
某ワイナリーの人が、水を撒きたいからなんでしょ、みたいなことを言ってたけど、それは違うと思う。確かに灌漑もしますよ!ってラフルールは言ってるけど、それだけじゃないと思う。
実際、ラフルールみたいな有名ワイナリーじゃないとこの選択しても話題にはならんし、選択をしたことで売れなくなることも目に見えてるから、ラフルールだからできる選択なのは間違いない。
余談
いつもこういう決まりと作り手の想いを考えると思い出すことがあります。
またまたポムロールのワイナリーの話なんやけど、シャトー・ガザンに行った時のこと。
オーナーと話してて、オーガニックの認証を取る気はないの?って聞いた時の答え。
「確かに毎年オーガニック認証を取れる栽培方法を取ってるけど、もしブドウが病気になったら、って考えた時にオーガニック認証を持っていたら、それを捨てるかブドウを病気にさらしてでも農薬量を減らすか、の2択に迫られると思う。でもそういう時に僕たちは何よりも先にブドウの健康状態を大切にしたい、それが良いワインを造ることに繋がると思っているから。今後もオーガニック認証を取る気はない。」
なんかさ、これって真理な気がしていて。
最近はやりのオーガニック、ビオディナミック、そしてナチュール。
特にビオディナミックはドイツで提唱された栽培方法で、ドイツとフランス、特にボルドーみたいに湿度が多い地域だとブドウの生育環境が全然違う。
それなのに、北国で作られた決まりに沿ってブドウを栽培しなければならない。
だからベト病が蔓延する。
だって散布量に限界があるから。
私はオーガニック栽培も、ビオディナミック栽培も、ナチュールも否定したい訳ではない。
その選択に造り手の想いも乗っかってくると思ってるし。
このワイン好きやなーと思ったらビオディナミックを採用してることが多かったりするし。
でもさ、でもさ…と思うことも沢山あって。
ワインを造るためには健康なブドウって必要不可欠やん?ラベルのためにブドウを病気にするのは間違ってるやん?欠陥のあるワインを世に広めるのは間違ってるやん?と思ってる。
特にビオディナミックのワイナリーを見学すると、学びも凄い多くて。
なんか、この辺の私のもやもやとした気持ちを助長するかのように数年前のオーゾンヌとかシュヴァルブランの格付け脱退やったり、今回のラフルールのニュースがあったり。
良い、悪い、は私が決めることではないし、計り知れない造り手の想いがあると思う。
それを考えるいい機会を与えてくれた偉大なワイナリーたちに感謝したい。
アリエノール公式インスタグラムで動画や画像を更新しているので、ご興味ある方は併せてご覧ください。
感想やこんな内容書いて欲しい!などあればお気軽に連絡ください。 ワイナリー通訳同行も行っています。 sachiwines@gmail.com 思い入れのある小さな生産者のワインやコニャックの直輸入&販売始めました。 ホームページ:アリエノール Instagram:アリエノール X:アリエノール その他色々やってるので、良かったら見てください。 Instagram:ワイナリー訪問 X:@sachiwines レストランブログ Facebook:ボルドージャポンネット ホームページ:ワイナリー通訳同行 旧ブログ:ボルドージャポンネット レストランブログ

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